こころの杖 -桃太郎-
瑞龍寺 清田老師
http://www.zuiryo.com/kokoro/201604.html より
桃太郎
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桃太郎の話はどなたでもご存じと思うが、桃太郎がサル、イヌ、キジを連れて鬼ヶ島に征伐に行く有名な昔話である。この話は征伐に行く桃太郎の側から描いた話だが、これを鬼の側から描いた芥川龍之介の短編「桃太郎」というのがある。豊かで平和な暮らしを突然たたきつぶされた鬼たちが、おそるおそる、何か自分たちは人間に悪さをしたのかと尋ねる。すると桃太郎は、日本一の桃太郎が家来を召し抱えたため、何より鬼を征伐したいがために来たのだと答える。鬼達は自分が征伐される理由がさっぱりわからないまま皆殺しにされたのである。 | |
笑い話ではない。つい最近まで、これと同じ事が起きていた。例えばアメリカインディアンは白人とみれば理由なく襲いかかってくるどう猛な民族で、力を合わせて撃退し滅ぼすことが美談とされた。アフリカのマウマウ団と言えば、呪術を用いて人々を暗殺する危険な集団で、平和な暮らしを守るために撃退しなければならない悪の根源と見なされた。しかし大人になって世界の歴史を読みあさるようになると、これらの考えが土地を侵略した側が作った身勝手な物語であることが分かってきた。住んでいる土地を奪われ、不公平な取引をさせられ、伝統と文化を捨てることを強いられた人々が抵抗している姿を、悪魔のように物語っていたのである。自分は物語を作った側に居ただけなのだ。インディアンやマウマウ団を生み出した人々の側に居れば、自分たちの文化や暮らしを踏みにじった人々は、鬼ヶ島にやってきた桃太郎のように映ったに違いない。 |
グローバル化した現代、私たちは様々な文化や情報を手に入れることが出来るようになった。そこで肝心なことは、常に物語の作り手の側からだけで読むのではなく、多様な側面や視点に立って解釈して欲しいものである。そうしたら新しい世界観を立ち上げる方法が見つかられるはずだと思うのである。 |